太田家　３rdアルバム「あいことば」DISC REVEW

　文学的青春パンク・バンド、太田家が結成５周年という節目に3rdアルバム『あいことば』を発表。前作『四季織々』から約2年、コラボレートやタイアップ曲を含む全11曲、とんでもなくバラエティに富む楽曲が所狭しと並んでいる。バンドの音楽的キャパシティの広さはもちろん、１曲1曲の個性が粒立ち、作品トータルにおいて凄まじく求心力の高い一枚に仕上がった。今作で初めて太田家に触れる人にとっても、入門編かつベスト作！と断言できる完成度を誇っている。

　ライヴで鍛え上げられた足腰の強さに加え、豊富なアイデアを躊躇なく盛り込み、一歩間違えればバランスを崩しそうな大胆なアプローチさえも”太田家・節”として着地させている。直球だけが持つパワフルさと、変化球でしか見せられない極上のフックを武器に、不特定多数のリスナーに引っ掛かりをもたらす楽曲/サウンドを掲げ、バンドの表現領域を拡大させている点が素晴らしい。

　オープニングを飾る「君と世界制服」（＊青春バンドTRPG「ストラトシャウト」とのコラボ楽曲）は太田ひさおくん（Key）による流麗な鍵盤が鳴り響き、そこに太田彩華（Vo/B）の哀切な歌メロを乗せ、ピアノ・エモ的な楽曲アプローチを取っている。冒頭から世界観にグッと引き込まれるナンバーだ。「制服を着たまま空を飛びたい」と歌詞にあるが、10代の頃のピュアな感情や、その時に抱いた夢をまっすぐ信じよう、というメッセージ性が込められているよう。また、「制服」には「征服」という意味を内包させたダブルミーニング的な意味も感じられる。

「夏影方程式」はライヴ映え必須の疾走ナンバー。ヘヴィなリフ、勇壮なコーラス・ワーク、中盤過ぎには語りパートも設けられ、後半に向けてドラマ性に長けたアレンジが光っている。誰しもが経験したことがある甘酸っぱい恋模様を描いた歌詞にも胸を突かれてしまう。「鋼」は太田たけちゃん（Dr）のパワフルなドラムを推進力に、熱情迸る歌メロをストレートにぶつけてくる。「刻め、今を生きた証」、「魂は熱く焦がれている」と歌詞にあるように、今を生きるすべての人たちに送る応援ソングである。さらに「永遠など限界など　要らないから鋼鉄の強さを」という直球の歌詞も突き刺さる。

　オリエンタルな雰囲気漂う「言ノ葉ニ咲ク」（＊ゲーム「SAMURAI MAIDEN -サムライメイデン-」のPRソング）もインパクト抜群の楽曲だ。長めのイントロで太田エリカ様（G）のギターが楽曲の方向性を色付け、頭韻を踏んだ歌詞で日本語の面白さをアピールしている点もポイントだ。アルバム中盤にはエリカ様のハードロック風ギターをフィーチャーしたインスト曲「to the FUTURE」を挟み、後半にもブッ飛んだ楽曲が待っている。とりわけ「咖喱」（＊カフェ×農家で立ち上げた「ぎふカレー」プロジェクトの応援ソング）は曲名通り、万能食的な役割を果たすカレーを通して世界平和を説く壮大なメッセージ性を秘めている。ユーモアをスパイスにした歌詞にも注目。さらに「パンクソーラン」は「ドッコイショ」というパンチ・ワードを用い、ありそうでなかったパンクお祭り曲に仕上げている。これもライヴで盛り上がること間違いないだろう。

そして、最後を飾る「沈黙と歓声の間」（＊ラグビーの応援ソング）はシンガロングを誘発する神聖なコーラス・ワークで始まり、さらに哀愁を帯びた歌メロも素晴らしく、フィナーレに相応しい壮大な曲調だ。「痛みを知る人だけが　輝きを手に入れるから」と歌詞にあるように、艱難辛苦を乗り越え、命ある限り栄光を掴むんだ！と聴き手の背中を力強く押してくれる楽曲である。

　今作の全11曲はバンドが持ちうる最大級の表現幅を見せつけながら、自分の中で燃え上がる目標や願望を強力に援護してくれる言葉がぎっしりと詰まっている。『あいことば』というアルバム名にはいろんな解釈がありそうだが、その日の気分や状態でリスナーが思い浮かべたものを投影させ、楽曲に感情移入して欲しいというバンド側の意向も感じ取れる。とにかく、「生きる糧」や「人生のサウンドトラック」として伴走してくれる楽曲の数々に是非耳を傾けてほしい。いい意味で好きな曲が聴き手によって分かれそうだが、それがまた懐の深い今作の大きな魅力になっているのだ。

TEXT　荒金良介